こども食堂 よこすかなかながや 理事長 和田さん

こども食堂 よこすかなかながや 理事長 和田さん

神奈川県横須賀市において、子ども食堂をはじめ、フードパントリーや学習支援活動など幅広い支援活動を行っている『よこすかなかながや』。”こどもふるさと便”では、横須賀市および三浦市のプロジェクトの支援先として、『よこすかなかながや』へ食材・食品をお届けしました。

代表を務めている『NPO法人よこすかなかながや』の理事長 和田信一さんは、もともとトラックの運転手として働いていましたが、仕事が忙しくご自身の子どもたちと一緒に過ごす時間がなかなか確保できませんでした。そうした生活を続けたまま、彼らが成人し巣立っていった際に、「これからの人生をどうしよう」と考えたそうです。

そんなとき、お腹を空かせている子どもたちのための「子ども食堂」という活動が各地で広がっていることを知り、「自分も何かできることはないか?」と強く感じ、横須賀 の子ども食堂に関わるようになりました。寝食をいとわないその情熱から自ら団体を立ち上げ代表に就任し、横浜から単身で横須賀に移り住み、2017年から活動を続けられています。

今回は、現在の『よこすかなかながや』の活動内容や、”こどもふるさと便”に期待することなどについて、理事長の和田さんに伺いました。      

――子ども食堂『よこすかなかながや』ついて、活動内容を教えてください。

(和田さん) 私たちの子ども食堂は、一日の中で3つの時間帯で営業しています。まず「あさながや」、次に「ひるながや」、最後に「よるながや」です。各時間帯で、訪れる子どもたちも異なります。

「あさながや」は平日の朝に運営しており、学校がある平日は営業していますが、祝日や春休み、夏休みなどの学校の長期休暇期間はお休みとなります。「ひるながや」は月、火、金曜日に営業しており、学校に行けない子どもたちがここでご飯を食べたり、孤立せずに過ごせたりする場所となっています。「よるながや」は月曜日から土曜日まで営業しており、学校がある日でも毎晩営業しています。

子ども食堂のほか、フードパントリー活動も行っています。私たちのフードパントリーは配達型で、現在、横須賀全域で32軒 (2024年7月時点)の支援世帯があります。これらは横須賀市の関係機関、スクールソーシャルワーカーの方々からの紹介によるもので、本当に大変な状況にある子どもたちや家庭を『よこすかなかながや』が支援しています。

また、今年6月下旬からは月に1回、池上子ども食堂を始めます。これは地域のデイサービスの施設を借りて、中学生以下の子どもたちが自由に来られる場所です。県立保健福祉大学や三浦学園高校の学生たちが手伝ってくれることで、子どもたちと近い視点を持った子どもファーストな食堂を目指しています。

『よこすかながながや』では、行政の目が届かない子どもたちを見つけ出し、支援するために、誰でも来られる子ども食堂の運営を心掛けています。訪問型のフリースクールやフリースペースを設営し、学校に行けない子どもたちが自由に集まれる場所を提供しています。もちろん、子どもたちはすべて無料で利用できます。

――"こどもふるさと便”の取り組みについて、どのような印象をお持ちですか?

(和田さん) 規格外とされる野菜が寄贈される取り組みについては、とても必要なことだと思います。まず、食品ロスの観点から見ると、生産者がせっかく作ったものを規格外だからといって捨ててしまうのは非常にもったいないです。

また、子どもたちのために安価や無料で食事を提供する非営利団体の子ども食堂にとって、栄養や味に全く問題のない野菜を提供してもらえることは非常にありがたいですし、この取り組みには大賛成です。

――”こどもふるさと便”の取り組みが、今後全国各地へと広がると、世の中にどのような変化が起こると思いますか?

(和田さん) ”こどもふるさと便”で全国各地の野菜を困っている家庭へお配りして気づいた変化があります。それは、普段あまり購入することのない野菜の提供が「料理を始めるきっかけ」に繋がっていることです。

私は、家庭でご飯を作ることに生活の基盤が整う過程があると考えています。これまで支援先では、病気などで料理をしない、ご飯を作らない人も多くいました。キッチンがゴミだらけで片付けるのが難しいということもあります。しかし、食材を提供することで「何か作ってみようかな」という意識が芽生えることも同じだけあります。

料理をする習慣がないと、弁当を買ったりデリバリーを頼んだりしますが、自分でご飯を作るようになると、「食」に関わるお金の使い方が変わり、それに伴い生活スタイルも変わってくると思います。こういった変化によって社会に適応する家庭が少しでも増えていったらいいなと考えています。実際に、支援先の家庭の変化を目の当たりにしていると、「料理を始めるきっかけ」に繋がる食材の提供は、非常に意義のあることだと感じます。

私たちの子ども食堂は、一般的な子ども食堂と比べると、社会から孤立している家庭が多いのが特徴です。フードパントリー活動を通して、一日でも早く、少しずつでも、社会に適応して自立する家庭を生み出すことに繋げられたらと思います。自立した家庭が増えることで、行政のお金を使っている人たちが減り、税金の負担も軽減されると思います。”こどもふるさと便”の取り組みが、生活保護から抜け出すきっかけに繋がれば、その一助となるのではと考えています。

例えば大根1本をそのままお渡ししても使い方がわからず困らせてしまうかもしれないと思い、ミールキットのようにカット野菜の詰め合わせの方がよいのではとも考えましたが、和田さんのお話を聞いて、「料理を始めるきっかけ」に繋がるという視点がなかったことに気付きました。習慣の変化に繋がるというのは素晴らしい考えですね!

――子育て世帯とつながり、支援を通じてささえる立場として、この取り組みに今後期待することはありますか?

(和田さん) 一般的なフードバンクでは対応しきれない内容かもしれませんが、子育て世帯とつながり、コミュニケーションを取りながら食材を提供できることが「よこすかなかながや」の強みです。これはつまり、“必要なものを、必要なときに、 必要なだけ提供できる”ため、無駄が減り、フードロスを防ぐことができるということです。

一般的なフードバンクでは、支援先家庭の必要量を把握することができずに、適切な量の食材を提供できないケースもありますが、なかながやでは子ども食堂も併設しているため、どの家庭がどのくらい食材が必要で、どれだけ消費できるかをだいたい把握しています。そのため、必要なものを適量提供することができ、フードロスの削減につなげられていると考えています。

フードパントリー活動後、翌週に支援先の家庭を訪ねると、お配りした野菜が知らないうちに傷んでいたり腐っていたりすることがあります。こうした事例からも学び、最終的には、エンドユーザーに本当に必要なものを、必要なときに、必要な量だけ渡すことができる活動を目指していきます。

様々な事例やモデルケースを、数多くの支援先と繋がっている”こどもふるさと便”の取り組みと連携しデータベース化することで、本当に困っている世帯への、ムダやムラのない食支援を、幅広い地域で実現できればと期待しています。  

――ネッスーの“こどもふるさと便”で届けられた食材・食品を食べる子どもたちへのお気持ちを聞かせてください。

(和田さん) 最近では物価が高騰しており、困窮されている方々や、特に子どもを持つ家庭にとって、日々の生活が非常に厳しい状況となっています。そのため、食材の購入を制限せざるを得ない家庭も多く、最近ではお米が不足している家庭もあります。その結果、子どもたちは十分な食事を取れていないのが現実です。

しかし、無償で食材を提供していただけることで、家庭での料理のレパートリーが増え、子どもたちもお腹いっぱい食べられるようになります。その結果、子どもたちの笑顔が増え、幸せな時間を過ごせるようになると考えています。このような活動を通じて、子どもたちの笑顔が毎日見られることが非常にありがたいです。

また、子どもたちにとって、さまざまな経験や体験、情報を得ることは非常に重要です。学校に通っていない子どもたちは、自身の生活圏の外からの情報が乏しいことが多いです。例えば、どのように料理が作られるのか、野菜がどのような環境で育つのかなど、基本的な知識すら知らないことが多いです。

季節の野菜についても知らないことが多い一方で、スーパーでは年中同じものが並んでいるため、旬のものを知る機会も少なく、食べたことのない食材も多いです。”こどもふるさと便”を通じた食育で、子どもたちに新しい知識を提供することも重要だと考えています。なかながやがその一端を担うことができればという想いがあります。

  非営利活動法人 よこすかなかながや

理事長 和田信一

所在地 神奈川県横須賀市池上4-5-11 https://yokosukanakanagaya.com/