こどもふるさと便

旭川市 農政部農業振興課課長 杉山利勝さん

旭川市 農政部農業振興課課長 杉山利勝さん

経済的困難を抱えるこどもたちに、地域産のお米を届けたい。 そんな思いから始まった旭川市の「こどもふるさと便」プロジェクト。農業振興課とJAあさひかわが連携し、ふるさと納税の仕組みを活用して進められるこの取り組みは、単なる支援を超え、農業の新たな可能性を拓こうとしています。今回は、本プロジェクトの担当者である旭川市農政部農業振興課課長の杉山さんに、プロジェクト立ち上げの経緯や旭川市の農業が抱える課題、そして未来への展望について伺いました。

「生産者を支え、ブランドを育てる」——農政部の2つのミッション

ーまず、旭川市農政部農業振興課の業務についてお聞かせください。

農業振興課には「生産振興係」と「ブランド推進係」があり、それぞれ役割が異なります。前者はお米をはじめ、野菜や畜産などを含む生産者への直接的な支援を行ったり、生産調整や交付金対応、機械導入支援を行うことが主な業務です。後者は地産地消をベースに、農福連携、販路開拓、6次産業化などを通じて旭川農業の付加価値を高める役割を担っています。

ー農業振興課やブランド推進係として考える、地域やこども、産業に関する課題はどんな点でしょうか。

農業生産体制の整備が最重要課題であり、国や市独自の補助金を活用して安定生産と高付加価値化を目指しています。また旭川農業のイメージアップのため、食育や地域のこどもたちを巻き込みながら、SNSなどを活用して幅広い層に情報を発信していくという活動を実施しています。

生活保護の現場から見えた“こども格差”の課題

ー旭川市のこどもを取り巻く環境や格差について教えてください。

実は以前、生活保護担当をしていた経験がありまして。外からは見えにくいけれど、旭川にも経済的に厳しい家庭が確実にある。そういった地域におけるこどもの機会格差に課題感を持っていました。農政部から直接働きかけるのは難しいですが、「こどもふるさと便」なら農業分野だけでなく福祉の地域課題にもアプローチできる。農産物を使って、こどもや家庭に安心を届ける。そういう新しい考え方があるのではと感じたんです。

「規格外」ではなく「一番おいしいもの」をこどもたちへ

ー旭川市のお米をこどもふるさと便で活用することになった経緯はどういったところからでしょうか。

最初は、出荷できない規格外品の有効活用も兼ねたプロジェクトに、という話でした。果物などではそのような規格外品があるのですが、お米の場合は市場流通がしっかりしていて、ロスが出にくい。だからこそ逆に、「ちゃんとおいしいお米を支援に回す」ことが、こどもたちの健康や満足感を高めるだけでなく、旭川市産米のブランド価値の訴求にもつながると考えました。もらう側も、贈る側も嬉しい、そんな取り組みを目指していきたいと思っています。 将来的には、寄附先のこどもたちがお米を通じて旭川市を知り、好きになってもらいたい。長い目で見たときに、様々な副次効果を生んでいくんじゃないかという期待感を持てたことが、この取り組みを始めたきっかけです。

ーふるさと納税を通じた取り組みについては、どのように感じられていますでしょうか?

正直、ふるさと納税制度には少し懐疑的なところがありました。返礼品目当ての“ショッピングサイト”のような側面が強くなり、本来の「寄附」としての意義が薄れてしまっているように感じていたからです。 ですが、「こどもふるさと便」はそうではありません。寄附者は返礼品を受け取りながらも寄附が何に使われるかという使途が明確で、困っているこどもたちにつながっている。従来のふるさと納税は“返礼品目的”の側面が強まっていますが、本事業では“目的と寄附使途の透明性”が確保されており、本来の社会貢献の姿に近い。しっかりとこどもたちの食支援につながるという点において、これが本来のふるさと納税の目指すべき姿だと感じています。

「全国に届ける」ことへの確信

ー自治体によっては「地元への支援が優先」が前提になりがちですが、旭川では全国への配布を実施していますね。

はい。市内にも配布はしていますが、旭川のお米は市内だけでは食べきれないほど生産されていますので、外に出していくことに何の違和感もありません。我々は福祉部局ではなく経済部局ですので、販路拡大は明確な目的です。他自治体には異なる方針があるのも当然ですが、私たち経済部局としては、「社会貢献型旭川農産物販路拡大事業」として全国への展開は必然と考えています。

寄附者と生産者の誇りにつながる「どこに届いたかが見える」支援

ーこどもふるさと便の取り組みについて、実施した感想を伺えますでしょうか。

初年度は制度設計なども含め、なかなか大変でしたが、実施して本当によかったと思っています。特に協力いただいたJAあさひかわさんには、深く感謝しています。 ふるさと納税型クラウドファンディングでは、「せっかく寄附するなら意義あることに使ってほしい」という声を多数いただきました。何百ものプロジェクトが並ぶ中で、当事業は多くの寄附を集めることができました。それは、寄附者の皆さんの共感や期待が、この取り組みに表れていたからだと思います。 今年から、生産者向けの説明会も実施しました。こどもの貧困の現状に驚いたという声や、そういったこどもの支援に自分のお米が使われ、おいしいと言ってもらえることがとても嬉しいという声をいただきました。これからも生産者の方々と連携を深めながら、さらによい仕組みに育てていければと考えています。

今後の展望:米だけにとどまらず、交流人口の拡大へ

ー今後支援の輪が広がっていくというところで、どういう未来を作ることができるかという、展望の部分でお考えがあればお聞かせいただけますでしょうか。

「こどもふるさと便」のような取り組みは、寄附を通じて都市と農村をつなぐ“橋”になり得ると感じています。 寄附者が「この地域の困っているこどもたちに届けたい」と思って選んだ地域に、旭川市のお米を贈ることができる。この“意志の届く仕組み”こそが、本来のふるさと納税の姿だと思います。 また、近年の米価高騰を背景に、食料が“当たり前にある”ことのありがたさにも、改めて注目が集まっています。農業の現場が支えているという認識が広がれば、生産地への理解や関心も深まるはずです。 今後はお米以外にも、野菜や卵、加工品など支援対象を広げたいですし、こうした活動を通じて旭川に興味を持った方が実際に訪れるなど、交流人口が増えていくことにも期待しています。食を通じた“出会い”や“つながり”が、地域に新たな風をもたらす。そんな未来を描いています。

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