
認定NPO法人D×P(後編) 理事長 今井紀明さん
セーフティネットから抜け落ちやすいユース世代(13歳から25歳の若者)の孤立解消に取り組んでいる認定NPO法人D×P。今回の後編では、理事長・今井紀明さんに、支援活動で出会う若者たちの現実とこどもふるさと便への期待についてうかがいました。聞き手は、ネッスー株式会社代表の木戸優起です。
「助けて」と言いやすい環境をつくっていく
——オンライン相談「ユキサキチャット」や特に生活困窮する若者に向けた食糧支援や現金給付「ユキサキ支援パック」、そして居場所事業「ユースセンター」といった事業についてここまで伺ってきましたが(詳しくは前編)、支援活動のなかで近年感じることはありますか?
ここ最近でいえば、物価高騰ですね。若者たちの生活を直撃しています。D×Pの調査では、支援を希望する若者の約2人に1人が「何も食べない日がある」と回答しています。毎日ごはんを食べるという一見当たり前のことが、叶わない状況の若者がいて、これでは将来への希望を持つことすら難しいのもうなずけますよね。
——そういった意味でも、食を支援することには大きな意味がありそうですね。
相談、食、給付、これが支援の3本柱と思っていて、食は中心のひとつと思っています。
——そのほかに支援するなかで強く感じることはありますか?
虐待であるとか、親にお金を取られているとか、そういうことが通常の状態になっている場合だと、もはや問題の言語化をしたところで意味がない、相談したところで意味がない、と思っていることも多くて。過去の経験から大人に対しての拒否感を持っていて、誰かに頼ったところで何か良い結果になるわけではないと考えている人も多くいます。
私たちはNPOとして、全国どこからでもアクセスできるオンライン相談と、繁華街で出会い、対面で信頼関係を築くユースセンターでのアウトリーチ、両方の手法で支援をおこなっています。
「自分から声を上げづらい」「支援につながりにくい」若者たちに届く手段として、いまの日本にまだ足りていない支援のかたちだと感じています。
若者たちが安心して頼れる環境をつくり、「助けて」と言いやすい状態を整えること。さらには、自然と社会資源にアクセスできる仕組みを整えていきたいと考え、日々活動しています。

——スタッフさんも若い方が多いと思いますが、支援する側の年代が若いほうが若者たちも心を開きやすいのでしょうか。
年代はたしかに関係するところもあると思います。自分と歳が近い若い人のほうが話しやすいというのもあると思うんですが、本当に重要なのは否定せず関わることかなと思っていて。
子ども・若者たちは、自分のことを話したときにどういう反応が返ってくるかをよく見ています。言葉の節々や態度から「この人私のこと認めてないんじゃないか」とか「あんまり考えてくれてないんじゃないか」みたいなことを見透かしてしまう。だからこそ、ちゃんと受け入れることを私たちは大切にしています。どういうことがあったとしても、まず否定せず関わるって部分は、オンラインでもオフラインでも大切にしていることですね。
——若者との関わり方の話が出ましたが、自分の住んでいる地域に相談できる相手がいない人も多いでしょうし、LINEなどを使ったオンラインの相談支援は知られれば知られるだけ利用する人も増えていきそうですね。
ユキサキチャットのような支援は、ニーズが高く、今後ますます広がらざるを得ないと感じています。いま日本には13〜25歳の若者がおよそ1500万人います。そのうち、貧困状態にある人や無業、中退、ヤングケアラー、進路が定まっていないなど、困難な状況に置かれている若者は、約300万人いると推定しています。一方で、相談機関などが実際にリーチできているのは約30万人にとどまっているのが現状です。
ユキサキチャットの登録者が約1万9千人(※2025年11月1日時点)で、貧困線以下で生きている人の半数にリーチするだけでも、いまの100倍くらいの規模が必要なわけです。ぜんぜん足りていないんです。

こどもふるさと便と連携することでできること
——今回、こどもふるさと便に参加してくださることで、D×Pを通じて困難を抱える若者たちに支援を届けられることになりました。参加を決められた背景には、どのようなものがあったか教えていただけますか?
自治体ともつながっているし、食品の仕入れルートがしっかりあるっていうところが、うちにはない強さなのかなと思っていて。D×Pはあくまでも子ども・若者支援の現場を持っているNPOなので、やはり物流分野とか自治体連携は、ある程度やってはいますけど専門ではないので、その点で連携しがいがあるのではないかと感じていますね。
——こどもふるさと便では、日本各地の自治体と連携してその地域の生産者さんから食品を仕入れているんですが、実際に出していただける支援品となるものは本当に新鮮でおいしい地域の特産品なんです。これまでもいろいろな食品を子ども・若者たちに支援してきたなかで、そういうおいしい特産品を届けるっていうことについてはどういった印象を持たれますか?
やっぱり食っていうのは、本人たちの記憶に残るものなのかなと思っています。D×Pの食糧支援はレトルト食品とかが中心ですけど、食べ物が届くとやっぱりすごく喜んでくれます。たとえば、ヤングケアラーの子が「パックご飯があるとお弁当に持っていけて助かる」とか、「フリーズドライのスープが学校でお湯入れたらすぐ食べられて嬉しい」みたいなことを言ってくれたり、けっこう何をもらったか覚えているんですよね。
だから、地域の特産品とかそういったものは、本当に記憶に残るものになっていくと思います。できればチラシ1枚でいいので、こういう生産者の方が送ってくれたんだよ、みたいなことも食べ物と一緒に送れたら面白いかもしれません。生産した人の思いが伝わると、同じ食品でもまたぜんぜん違うものになると思うので。
——こどもふるさと便は、いまは食品がメインですが、将来的には子どもたちにさまざまな体験機会も提供していけたらと考えています。最初の試みとして、2025年度から長崎県壱岐市にある壱岐イルカパーク&リゾートでイルカとふれあう体験を応援品として子どもたちに届けられるようになります。体験機会については、どのようにお考えでしょうか。
ユキサキチャットでつながっている子たちは全国各地に点在しているので、いろいろな場所にいろいろな体験機会があればいいなと思いますね。
たとえば、うちの取り組みでいえば、九州でフライドチキンのチェーンをやっている寄付者さんからお店で使えるプリペイドカードをご寄付いただいて、九州の子たちにそれを支援品として渡したらすごく喜ばれたんです。お店に行く体験自体もそこには含まれると思っていて。ごはんを食べるという毎日の行為のなかで、ちょっと特別感のある体験が入ってくるのはやっぱり強いと思いました。
——最後にあらためて、こどもふるさと便に対して期待するところを伺えたら嬉しいです。
ここ数年で、子ども・若者支援に関心持ってくださる企業さんや個人の方は増えてきていますが、今回のこの取り組みでその裾野がさらに広がっていくことに期待したいです。私たちはNPOとしてやっていますが、今回のように企業と連携することで、関心を持ってもらえる方が増えると思いますし、それによってできることも広がり面白くなるとも思っているので、ぜひさまざまな方に関心を持ってもらいたいですね。


