こどもふるさと便

全国こども食堂支援センター・むすびえ(後編) 理事長 三島理恵さん + プロジェクトリーダー 小山秀幸さん

全国こども食堂支援センター・むすびえ(後編) 理事長 三島理恵さん + プロジェクトリーダー 小山秀幸さん

こども食堂は、食事を提供するだけの場を超えて、さまざまな世代・属性の人々が集まり交流する居場所であり、さまざまな社会課題の解消に寄与する存在でもあります。そんなこども食堂への支援を通じて、「誰も取りこぼさない社会づくり」に取り組んでいるのが、認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえです。

今回の後編では、同法人理事長の三島理恵さんとプロジェクトリーダーの小山秀幸さんに、こども食堂と地域コミュニティの関係やこどもふるさと便への期待などをうかがいました。

こども食堂がむすび直す地域のつながり

——全国のこども食堂とのネットワークを基盤に、企業・団体などがもつ「こども食堂を応援したい」というニーズを現場の困りごととすり合わせ、適切な支援につなげている様子を前編でうかがいました。あらためて、こども食堂のもつ社会的な価値について、くわしく教えていただけますか。

三島 こども食堂の大きな特徴のひとつは、多様性を包摂しているところだと思います。まずここ30年ほどの大きな環境変化として、家族構成や社会における人とのつながり方の変化があります。3世代同居のような多人数・多世代の家族がいる生活や、町内会や自治会などを含む地域のつながりは減少しています。

特に高齢者と子どもが日常的に関わる機会がほとんどないのが現代社会だと思います。子どもからすると、学校や学童などは基本的に年齢で区切られていますし、いろいろな世代の人と交わる機会が本当にないんです。

一方、こども食堂では、未就学児から90代のおばあちゃんまで幅広い世代の人が同じ場にいて、みんなでごはんを食べています。私たちの調査でも、7〜8割のこども食堂が参加条件を設けておらず、さまざまな世代の人たちが集まれる場になっていることが明らかになっています。

人間関係や地域のつながりが薄くなっている現代のなかで、コミュニティベースで新しいつながりを生み出し、しがらみなく誰もが自分の意思で参加でき、自分の居場所だと思えるような場をつくっている。それがこども食堂であり、だからこそこれだけ広がってきたのだと思います。

——セーフティネットとしても機能していた地域内のつながりが失われることで、何か困ったことがあっても自力でどうにかしなければいけなくなるし、それができない人はどんどん苦しい状況に追い込まれてしまいます。ほどけてしまったつながりを新しいかたちで結び直すこども食堂は、まさに現代の地域社会に必要な存在なのですね。

三島 地域のつながりの希薄化や人とのつながり方の変化は、コロナ禍でさらに加速したと考えています。子どもたちの不登校や自殺の件数も、コロナ禍以降、増加傾向が続いています。子どもの人数は減っているのに、不登校や自殺の数値は増えているのです。しかも半数の子については、自殺の原因が分かりません。学校の先生にも、親にも、友達にも、誰にも相談せずに自死を選んでいる子どもたちが増えているとしたら、その孤独・孤立をなくしていくことも、こども食堂が担える大きな役割だと思っています。

——先ほど幼い子から高齢の方まで、幅広い世代の人たちが食を通じて集まれるというお話がありました。多世代を包摂するこども食堂だからこそのエピソードがあれば教えていただけますか。

三島 こども食堂でよく聞かれるのが、子どもたちがごはんをたくさん食べて褒められるという話です。大人からすると子どもがモリモリごはんを食べる姿を見ることで元気をもらっていて、それが言葉となって子どもたちに返っているのですが、こういう何気ないことが大事だと思っていて。ただその場にいて、ただごはんを食べていただけで他者から認められるといった経験をすることで、子どもたちのなかに何かあったときの回復力、レジリエンスのようなものが養われていきますし、他人を信頼したり、地域に愛着をもったりといったことの土台も培われていくのではないかと思います。

——世代を超えて交流するからこそ、子どもたちのなかに育まれるものがあるのですね。子ども以外の人にとっての多世代交流の価値として、どういうことが言えるでしょうか。

三島 多世代の交流は、子どもだけでなく親への支援にもなります。たとえば、子育て中のお母さん・お父さんがそこに来ることで、ホッとひと息つくことができたり、困ったことがあったときに相談できるつながりができたりします。そして、そういうつながりがあることが精神的な支えになって、余裕がないなかで子育てをしているからこそ、子どもに対してちょっと強い言葉が出るだとか、手が出てしまうといったことが抑制されることにもつながっていくと思います。

また、高齢者にとっては、健康づくり・生きがいづくりになります。次のこども食堂では何をつくろうかとボランティア同士で話し合い、準備を進めるなかで、そこに自分の役割だとかやりがいを感じて、「こども食堂に参加してよかった」と言ってくださる方がたくさんいらっしゃいます。

こどもふるさと便との連携

——今回、こどもふるさと便からも全国こども食堂支援センター・むすびえを通じて各地のこども食堂に支援を届けられることになりました。こどもふるさと便との連携を決めた背景に、どのようなものがあったか教えていただけますか?

三島 私たちもこども食堂の現場のニーズを教えてもらいながら、いろいろな方たちに現状をお伝えしてこども食堂の活動に参加・応援してもらえるようがんばって呼びかけています。ただ、私たち一団体にできることは、どうしても限られています。こどもふるさと便のような仕組みのなかに入れてもらうことによって、私たちが直接はたらきかけられない人にもこども食堂の活動に関心を持ってもらい、実際に何か行動を起こしてもらうきっかけが生まれることは、とてもありがたいことだと思っています。

こども食堂という言葉の認知度は9割を超えていることが私たちの調査でも分かっていますが、実際に何かしら関わったことがあるという人の数は認知度ほど多くありません。なので、こども食堂のことを知ってもらい、いろいろな主体がいろいろなかたちで活動に参加してもらえるようにしていくことを、これからも大事にしたいと考えていますし、今回のように協力して取り組むことで、より一層の広がりを生み出せると思います。

小山 こども食堂にお邪魔したとき、こどもふるさと便で届いたスイカの箱が置いてあって。我々だけでなく、ほかのみなさんも応援してくれて助かっているという話がいろいろなところから聞かれました。たくさんの人が自分たちの活動を応援してくれていると、こども食堂を運営する人たちにも感じてもらえたらいいですね。

三島 あとは、ふるさと納税の仕組みで自治体と連携しながら事業をされていますよね。自治体のみなさんにもこども食堂の活動をしっかり理解していただき、行政の立場から民間主体の活動を支える仕組みづくりにも取り組んでいただきたいと考えているので、そういったきっかけにもなれば嬉しいです。

持続可能なこども食堂のための環境づくり

——今後、特に力をいれていきたいと考えていることについて教えていただけますか。

三島 これからより一層がんばりたいと思っているのが、こども食堂がコミュニティベースで循環していく仕組み、持続可能な地域の環境づくりです。こども食堂を充実させるために、国などの大きな支援が入ってくることがあったとして、一箇所からの大きな支援のみに頼ると、その支援がなくなったときに活動を持続させることができません。だからこそ、いろいろな主体がこの活動に参加してくれることが必要です。

こども食堂に対する重層的な支援体制をつくるためには、国、都道府県、市区町村、小学校区、個人など、さまざまなレイヤーでやれることがたくさんあると思います。私たちむすびえとしては、ナショナルカンパニーと呼ばれるような大企業などにもしっかり呼びかけ、全国レベルの支援を仲介していくことは引き続きがんばっていきます。

一方で、都道府県レベルや市区町村レベルでも、たとえばロータリークラブや商店会、業界団体や経営者の集まり、それから自治体など、さまざまな連携によって地域のなかでこども食堂を応援する動きをうながしていきたいと考えています。

——こども食堂のなかだけでなく、まわりで応援する役割の人たちも多様であることによって、活動の持続性が守られるのですね。

あとは、お金や物資だけを循環させればいいと考えているわけではありません。もちろんお金や物資の循環に意味がないとは言いません。ただ、いろいろな人たちが実際に地域のなかでの支え合いの活動であるこども食堂のことを知り、応援する気持ちがお金や物資と同時に存在していることが大事だと思っています。

「応援してくれる人がいるんだ」「気にかけてくれている人がいるんだな」と思えること自体が、こども食堂の活動をエンパワーすることになります。子どもたちがこども食堂でボランティアや一緒にごはんを食べる大人たちに成長を見守ってもらうことで安心感を得られるのと同じように、こども食堂で活動する人たちにとってもいろいろな人に応援されていると感じられることがとても大切です。地域の人たちが気にかけてくれたり、事業者の人たちが支援してくれたり、行政の人たちが活動の意義を理解してくれたり、そういうことに励まされて活動を続けることができるのです。

こども食堂を運営している人の多くは、気持ちで動いているボランティアの人たちです。だからこそ、その気持ちを大事にしたいですし、気持ちが途絶えないように、環境をしっかりつくっていくことに尽力していきたいと思っています。

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