
キープ・スマイリング(後編) 理事長 光原ゆきさん
十分な制度的支援も整わないなかで、こどもの入院とともに、身体的にも精神的にも経済的にも厳しい付き添い生活を強いられる家族たち。そんな入院中の子どもの家族の付き添い環境の改善に取り組んでいるのが認定NPO法人キープ・スマイリングです。
今回の後編では、同法人理事長の光原ゆきさんに、近年の付き添いをめぐる状況の変化、そしてこどもふるさと便を通じた皆さまの寄付がどのように役立てられているかをうかがいました。
付き添いをめぐる制度の変化と現場のリアル
⸺ 2014年のNPO設立から10年以上が経ち、入院中の子どもへの付き添いをめぐる状況にはどんな変化がありましたか?
環境改善への取り組みとして、2023年6月に「入院中の子どもに付き添う家族の生活実態調査2022」の結果をもとに、付き添いの課題を改善していただくようこども家庭庁と厚生労働省に要望書を提出しました。その際に、厚生労働省記者クラブで記者会見も開き、多くのメディアに取り上げていただきました。
入院中のこどもの付き添いは、「子どもが病気なら親ががんばって当たり前」という雰囲気が強く、長らく当事者が声を上げにくいテーマでした。それでもSNS上でのハッシュタグを用いた当事者発信やメディアなどの影響もあり、「つらいのは自分だけではなかった」という気づきにもつながり、「付き添う親のつらさを言ってもいいんだ」という流れができてきていると思います。
⸺制度や病院の対応にも、変化はあったでしょうか?
先ほどお話した要望書提出などもあり、国としてもきちんと対応すべき問題だと受け止められるようになってきました。2024年度の診療報酬改定では、付き添う家族の食事や睡眠の環境改善への配慮が明確に要件化されましたし、小児病棟に保育士や看護補助者を手厚く配置すると診療報酬が加算されるようになったんです。
2025年にはこども家庭庁による補助金制度も創設され、簡易ベッドや電子レンジの購入、付き添いスペースのリフォーム費用などに補助が出るようになりました。こうした国の動きを受け、医療業界としても付き添い問題に対応する空気感が醸成されてきました。「親に付き添いを強要するのではなく選択できるように」そして「付き添い環境は改善していこう」という意識が広がっています。

⸺制度はここ数年で変わってきましたが、家族が付き添いをおこなう現場の環境も変わったのでしょうか。
環境改善の兆しはあるものの、やっぱりまだまだ厳しいというのが実態です。最新の状況を把握するために、付き添い当事者と小児医療関係者を対象に調査をおこない、1100人以上の当事者と240施設以上の回答を得て『付き添い白書2025』を発表しましたが、現場だけでは解決できない構造的な実態が浮き彫りになっています。
本来、病院が付き添いの家族に期待しているのはこどもの精神的サポートで、見守りや排せつケアといった労働ではありません。でも、人材不足や財源不足、制度上の制約など構造的な課題があり、病院側もやむなく親にケアを依頼していることが分かってきました。
ここ数年で「こどもの権利」という言葉が浸透してきましたが、付き添いの問題の根本もまさにそこにあります。親の過酷な環境を訴えると「付き添い自体をなくせばいい」という意見も聞かれますが、私たちは付き添いをなくしたいわけではありません。大変な治療のなかでお父さんお母さんが一緒にいてくれる安心感は、医師や看護師には代替できない「子どもにとって守られるべき権利」です。
だからこそ、付き添いするか否かを各家庭の状況に応じて選択できること、そして「親と一緒にいられる環境」と、「親が倒れず笑顔でいられる環境」の両立が大事です。医療現場に負担を押し付けるのではなく、国や自治体による制度整備、企業や市民社会による支援などを含め、社会全体として入院中のこどもとその家族を支える仕組みづくりをしていくことが求められています。

付き添い生活応援パックで届ける物資と笑顔
⸺2025年12月末までに集まった寄付金を活用し、先日、こどもふるさと便からキープ・スマイリングへ応援品の寄贈第1弾をおこないました。最初の応援品は北海道旭川市産米を使用した「パックごはん」で、「付き添い生活応援パックライト」に入れていただいたとのこと。あらためてこの活動について教えていただけますか?
キープ・スマイリングでは、長期間泊まり込みで付き添う家族向けの「付き添い生活応援パック」と、緊急・短期入院の家族に向けた「付き添い生活応援パックライト」という支援をおこなっています。
多くの付き添いは、緊急入院というかたちで突然はじまります。そして、時間の自由がきかない生活が続くのです。そんな買い出しもままならない状況のご家族のために、私たちが独自に開発したオリジナル商品と協力企業などからご提供いただいた食品・生活用品・衛生用品などを詰めてこどもの入院に付き添うご家族に届けています。特に「付き添い生活応援パックライト」は緊急性が求められるので、全国約60の病院にご協力いただき、小児病棟の看護師長さんの判断で必要な方にお渡しいただくようにしています。

⸺「パックごはん」は、付き添いの現場の様子を教えていただいたことから、こどもふるさと便仕様で新たに開発しました。通常では、生米を応援品としてお届けしているのですが、それだと付き添いのご家族が食べることができないと。
病院には炊飯器もありませんし、それだと付き添い中のご家族が食べたいときに食べることができません。そこで、調理器具がなくても食べられて、常温で長期保存できる形式だと助かると相談させていただいたんです。
⸺応援品の第2弾・第3弾では、石川県能登町のイワシを加工した「いわしのみりん焼き」、長崎町対馬市の「アイゴパック」、北海道音更(おとふけ)町の「野菜セット」も寄贈する予定です。
魚は病院で食べる機会がほぼないので、喜ばれること間違いなしです。院内コンビニにも唐揚げやサラダチキンなどの鶏肉を使った食べ物はありますが、魚はなかなか食べられません。こどもふるさと便では魚介系は冷凍品で支援しているとうかがったのですが、これも病院では調理できないので、いわしのみりん焼きもそのまま食べられる常温パックをオリジナルでつくっていただきました。北海道音更町の「野菜セット」は、ドナルド・マクドナルド・ハウスでの「ミールdeプログラム」でお弁当をつくるのに使わせていただきます。
⸺魚が喜ばれるというお話がありましたが、ほかにはどんな食べ物やアイテムが喜ばれるでしょうか?
手軽に栄養が摂れる食べ物はいくらあっても嬉しいですね。野菜が摂れるレトルトスープやミネストローネ、ジュース、お味噌汁、おかゆのほか、フリーズドライ食品などもです。特に母乳で赤ちゃんを育てているお母さんは栄養バランスにもこだわりたい方も多いので、院内コンビニでゆで卵や野菜ジュースを買うなど、不自由ながらも少しでも栄養バランスをとろうと涙ぐましい努力をしているんですよね。調理器具がない病室でも、パッケージのまま食べられるレトルトカレーや常温保存のおにぎりなどは特に重宝されます。

付き添い家族を社会全体で応援する
⸺「付き添い生活応援パックライト」では、全国60の病院と連携されているということでした。医療現場と関わるなかで何か変化を感じることはありますか?
必要としている方から直接申し込みいただく「付き添い応援パック」と違い、「付き添い応援パックライト」は病院にまとめてお届けして、緊急入院のご家族に配布していただいています。そのため、以前より現場の看護師さんとのコミュニケーションが増え、現場の悩みを聞く機会も増えてきました。
たとえば以前、「抗がん剤治療中の子が『カップラーメンなら食べられる』というケースが多く、親御さんも一緒に食べることが多いが、残り汁を流しに捨てると油汚れや詰まりの原因になり困っている。ほかの病院はどう処理しているか?」と相談を受けたことがあります。学会では話題にならないようなトピックですが、キープ・スマイリングが全国の看護師長さんへアンケートを実施して集計結果をシェアしました。
付き添い用ベッドの購入を検討している病院からおすすめのメーカー情報を聞かれることもあり、現場の困りごとを相談できる情報ハブとして頼られる存在になりたいと思っています。

⸺今後、付き添いをめぐる環境はどのように変わっていったらいいと思いますか?
子どもが入院すると、親やきょうだいも含めて家族みんなの一大事になります。そして小児病棟の現場も人材や財源の不足という課題に直面しています。つまり付き添い問題の解決のためには、こどもと家族と小児病棟を社会全体で支えていく必要があります。
私たちはこれからも、国や自治体へ現場の声を届けながら、付き添い家族を社会全体で応援できる環境づくりを目指していきます。まずは付き添い入院の現状を知って、まわりにも伝えていただく。そして「自分にできることはないか」と考えて、何かひとつでもアクションを起こしていただけたら嬉しいです。
アクションの形はさまざまです。応援したいと思った方が選べる支援の受け皿をもっと整えていきたいと思っていますが、たとえばかつて自分がお世話になった病院へ寄付するのも応援のひとつです。こどもふるさと便での寄付も、確実にいま入院中のこどもと親御さんの笑顔につながります。応援したいと思った方は、ぜひご自身のできる方法でアクションいただけたらと思います。





